東京農工大、生体医工学や細胞プリンティング分野応用に向けた軟質材料内部の応力分布測定のための光学的手法を提案

2024年05月09日(木曜日)

 東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の田川義之教授と同大学院博士後期課程修了の横山裕杜氏、博士後期課程在籍の市原さやか氏は、やわらかい材料内に外から力が加わった場合に内部でどのように力が分布するかを三次元的に測定するための光学的手法を提案した。この研究成果は、再生医療や脳動脈瘤の破裂メカニズムの理解などの生体医工学分野での応用が期待される。

 やわらかい材料に外から力(応力)を加えた場合に、内部でどのように応力が発生するかは、生体医工学や再生医療などの分野で極めて重要で、例えば生体医工学では、やわらかい脳動脈瘤周りの応力分布を解明し、破裂のメカニズムを理解することが求められている。また、注射による痛みの評価など、低侵襲な治療の実現に向けて、人体のようなやわらかい材料内部の力の分布の理解が重要。

 本研究では、材料内の応力分布を推定するための一般的な手法である光弾性トモグラフィーを用いた。材料内部の応力状態によって変化する透過光の偏光情報(位相差と方位角)を高速度偏光カメラを用いて計測し、材料の内部応力状態を推定した。この手法は、材料の光学的異方性である複屈折の原理に基づいている。

 モデルケースとして、やわらかいゲルのブロックに固体球を静かに押し付け、三次元応力を計測した。計測結果と理論的な予測結果と良好な一致を示し、本手法によって正確に材料内部の応力が計測できることを確かめた。次に、ゲルブロックに固体球を衝突させ、動的な計測を行った。その結果、衝突によって短時間に変化する応力場も定量的に測定することに成功した。この技術により、瞬間的な力を受けて大きく変形するやわらかい材料内の応力も正確に計測できることが示された。
 

東京農工大学 左図:材料の三次元応力場と偏光カメラで測定した光弾性パラメータの関係:応力材料を通過する光の偏光情報(位相差と方位角)は、材料内部の応力場の積分値に関連している 右図:理論応力場(左側)と実験的応力場(右側の)の比較 月刊ソフトマター
左図:材料の三次元応力場と偏光カメラで測定した光弾性パラメータの関係:応力材料を通過する光の偏光情報(位相差と方位角)は、材料内部の応力場の積分値に関連している
右図:理論応力場(左側)と実験的応力場(右側の)の比較

 

東京農工大学 固体球衝突時の(上段)せん断応力と(下段)軸方向応力の時間変化:半径R = 2.98mmの球体の衝突速度はV= 2.2m/s。中央の白い部分は、球体の衝突によるゲル表面の変形を示す 月刊ソフトマター
固体球衝突時の(上段)せん断応力と(下段)軸方向応力の時間変化:半径R = 2.98mmの球体の衝突速度はV= 2.2m/s。中央の白い部分は、球体の衝突によるゲル表面の変形を示す