山形大学古川研究室など、高強度ゲル+3Dゲルプリンター用い、赤ちゃんのやわらかさ残す記念撮影を実施

2022年12月15日(木曜日)

 山形大学 ソフト&ウェットマター工学研究室(https://mech.yz.yamagata-u.ac.jp/lab/zairyo/furukawa_lab.html、古川研究室)は12月3日、4日、10日、11日、17日、18日、24日の7日間、「面白くて 変なことを 考えている」をモットーにインターネット広告やPRイベントの企画・制作を行う人間(https://2ngen.jp/)などと共同で、携帯電話サービスmineo(マイネオ)が生活の中で人々の抱える潜在課題などをテーマとしたイベントを展開する実験型未来共創スペースで、得られた知見や利用者の声をより良いサービスやライフスタイルにつなげられるよう取り組む東京都渋谷区のマイラボ渋谷(https://mylab-shibuya.jp/)で、生後6ヵ月〜2歳の子どもを対象に、高強度ゲルと3Dゲルプリンターを用いた共同実験企画「やわらか記念写真-赤ちゃんの感触を残す記念撮影」を実施した。1日親子4組限定=7日間28組の事前予約枠が早々に埋まり、希望者多数で追加6枠が設けられた。

やわらか記念写真 ソフトマター メカニカル・テック社
やわらか記念写真
やわらか記念写真ラボ 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
やわらか記念写真ラボ

 

 わが子の成長を記録する方法としてはこれまで、写真、動画、手形、似顔絵など様々な方法があったが、赤ちゃんの時期特有のやわらかさを残す試みはほとんどなかった。これに対し「やわらか記念写真」は、母親に連れられラボに来た赤ちゃんを様々な角度から撮像し作成した3Dモデルと、やわらかセンサーで測った赤ちゃんの肌のやわらかさを基に、3Dゲルプリンターを使ってその赤ちゃんの顔の起伏や肌の弾力などを高強度ゲルで再現して後々まで残そう、という共同実験となる。

 手順としては、母親に抱きかかえられた赤ちゃんの顔をいろいろな角度から撮影、オリジナルの3D撮像データに不要な部分をカットするなどの編集を加え作成した3Dデータを基に、皮膜硬度が高く傷がつきにくく皮膜に柔軟性があり折り曲げ可能といった再現性の高い特色インク採用の、多様な素材にプリント可能なミマキエンジニアリング製UV-LED硬化フラットベットインクジェットプリンタ「UJF-6042MkII」(https://japan.mimaki.com/product/inkjet/i-flat/ujf-6042mkII/)を用いて、パウチ表面に赤ちゃんの顔写真を高速・高画質に印刷する。
   
 

やわらか記念写真 3Dデータの生データ 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
3Dデータの生データ
やわらか記念写真 3Dデータの完成データ 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
3Dデータの完成データ

 

やわらか記念写真 ミマキエンジニアリング製UV-LED硬化フラットベットインクジェットプリンタ「UJF-6042MkII」 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
ミマキエンジニアリング製UV-LED硬化フラットベットインクジェットプリンタ「UJF-6042MkII」

 

 並行して、同じ3Dデータを基に、古川研究室が開発した世界初のバスタブ型3Dゲルプリンターの進化版であり30分で造形が可能な「GelPiper mini」が、ゲルの乾燥粉末と、水溶性アクリルモノマー、架橋剤、UV重合開始剤の水溶液の高強度ゲル原料にUVを照射し、赤ちゃんの顔を3D造形する。
   
 

やわらか記念写真 GelPiper mini(正面) 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
GelPiper mini(正面)
やわらか記念写真 GelPiper mini(裏面) 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
GelPiper mini(裏面)


 今回使った独自開発の「ICNゲル(相互架橋網目ゲル)」は、2種の相互架橋で高延性・高含水率を実現する高強度ゲルで、含⽔率96%でありながら破断伸び600%の⾼延性、繰り返し変形が可能といった特徴を持つ。つまり、今回のやわらか記念写真のように、赤ちゃん特有の弾力のある触感を実現しつつ、何度触っても劣化がない。
 

やわらか記念写真 やわらか記念写真の中身となるICNゲル 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
やわらか記念写真の中身となるICNゲル

 

 写真撮影の一方で、本体重量150gの片手に収まる新光電子製やわらかセンサー「SOFTGRAM」(https://www.vibra.co.jp/softgram/)を用いて、音叉の原理を利用した「EVERTONE SENSING」により、赤ちゃんの肌のやわらかさを簡単に瞬時に測定し数値化し、触感に合う測定結果が得られており、含水率を変えることで造形した3Dゲルのやわらかさを調整。上記の赤ちゃんの顔写真がプリントされたパウチ内に同3Dゲルを収納し位置決めすると、赤ちゃんの頬のプニプニの感触を残せる「やわらか記念写真」が完成する。
 

やわらか記念写真 新光電子製やわらかセンサー「SOFTGRAM」を用いたやわらか測定のようす 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
新光電子製やわらかセンサー「SOFTGRAM」を用いたやわらか測定のようす

 

 やわらか記念写真開発者で山形大学工学部システム創成工学科4年生の糸井麻夏氏は、「印刷と3Dゲルプリントの基となる、赤ちゃんを撮影しての生データから実用的な3Dデータを編集し完成させることや、高強度ゲルの含水率の調整で計測した赤ちゃんの肌の柔らかさを再現することに苦心したが、喜んでいただけてうれしい」と述べた。

 また、高強度ICNゲルや、3Dゲルプリンター、3Dフードプリンターの開発者で同大学教授の古川英光氏は、「やわらかものづくりを誰もが利用できる未来をあるべき姿として、その実現の共創を目指し、水道の蛇口をひねると水が出てくるかのようにユーザーの手元にゲルを提供する、『GelPiPerプログラム』を進めていて、ゲルハチ公、ゲルクラゲなどのソフトマターロボの製作など知的やわらかものづくり革命のビジョンを広めてきた。今回もその一環となるが、企画会社・人間やマイラボ渋谷と徹底的にアイデアを出し合って生まれた本共同実験では、GelPiPerプログラムで期待される体験や起きたことを共有することで気づきが広がる手応えが、より実感できた。お母さん方の反応もとても良かったが、遠く離れた孫のやわらかを体験できるやわらか記念写真は、おじいさん、おばあさんからの需要も見込めるかもしれない」と語っている。

 

やわらか記念写真 山形大学の古川英光教授(左)と「やわらか記念写真」開発者の糸井麻夏氏(4年生) 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
山形大学の古川英光教授(左)と「やわらか記念写真」開発者の糸井麻夏氏(4年生)

 12月25日にはまた、クリスマス限定企画として、パートナーの「やわらかさ」を遠方に転送する実験「会えない2人をゲルがつなげる やわらかテレポーテーション」を実施。大阪会場mineo大阪にいる参加者の身体の一部を計測し、東京会場マイラボ渋谷で出力する「感触の転送実験」で、形と触感をデータ化し立体のゲルとしてプリントする技術を応用し、遠距離恋愛やコロナ禍における「会えない恋愛」を応援するため、まるでテレポーテーションのように大阪から東京までパートナーの「体の一部」を送信し、遠くにいるパートナーと擬似的にでも触れることができる近未来的な体験となる。