第35回 散乱研究会が開催

2023年12月08日(金曜日)

 散乱研究会(事務局:大塚電子)は11月17日、東京都台東区のHULIC HALLで「第35回散乱研究会」を開催した。
 

第35回散乱研究会 開催の様子 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
開催の様子

 

 光散乱法は1944年のデバイの論文を契機に高分子やコロイドの研究に応用され始め、その後1940年代後半にジムらが高分子溶液の光散乱測定を始め、高分子溶液物性の主力研究の手段となり、日本でも1960年頃から光散乱測定装置の開発が始まった。ところが、光散乱法を利用するには散乱理論の知識が不可欠で、またその測定も容易でなかったため、装置の普及はそれを専門とする大学や一部の企業の研究室に限られていた。
そうした状況下で、この光散乱法を一人でも多くの人に知ってもらおうと、加藤忠哉氏(当時、三重大学教授)を中心とした世話人の熱意と、我が国の光散乱測定装置メーカーの草分けである大塚電子の支援により「散乱研究会」が1989年に発足、第1回研究会が東京で開催された。

 第35回目となる今回は、木村康之氏(九州大学)、寺尾 憲氏(大阪大学)、則末智久氏(京都工芸繊維大学)、川俣 純氏(山口大学)を世話人として、以下のとおり開催された。

・光散乱基礎講座「静的光散乱法」寺尾 憲氏(大阪大学)…静的光散乱法は、コロイド分散系や高分子溶液中における数nmからサブミクロンサイズの分散粒子のモル質量・サイズ・分子間相互作用を非破壊かつ同時に計測できる手法として広く用いられている。ここでは、静的光散乱法の測定原理について解説した後、静的光散乱法を用いた高分子を中心とする光散乱実験とそのデータ解析手法について解説。注意が必要な測定系として大きな粒子の影響と光学精製、分極率の異方性の寄与、光吸収、散乱強度とビリアル係数、混合溶媒系での選択吸着の効果などについて紹介した。

・「GPC-MALSを用いた分岐性の評価」外城稔雄氏(星光PMC)…高分子は化学的組成の違い以外にも、分子量、分岐性などによって物性が大きく変化する。GPC-MALSを用いると分子量以外にも回転半径に関する情報が得られる。分子量と回転半径の関係性から高分子の分岐性の評価が可能である。ここでは、古紙使用時の紙の強度低下を補うために使用されている同社の乾燥紙力剤のデータを用いて、分岐性の評価方法と物性の関係を紹介した。

・「マイクロレオロジーの基礎と応用」井上正志氏(大阪大学)…マイクロレオジーは、試料にプローブ粒子を加えて、そのブラウン運動の軌跡(平均二乗変位)から試料の線形粘弾性を測定する手法である。粒子の位置の検出方法にはいくつかあるが、ここでは顕微ビデオと動的光散乱を用いた方法について説明したほか、誘電プローブを用いて配向緩和から粘弾性を調べる手法についても紹介した。この誘電プローブ法では、分子サイズのプローブも利用でき、ナノスケールのレオロジーを調べることができる。

・「X線小角散乱を用いた水溶液中のナノ粒子の構造解析」櫻井和朗氏(北九州市立大学)…ここでは、放射光X線小角散乱を中心とした散乱法を用いて、水溶液中のナノ粒子の構造を解析した自身の研究例を紹介。具体的には、プラトンの正多面体の頂点の数と同じ会合数を取るミセル、短いRNAとカチオン性脂質からなる核酸医薬デリバリー用の粒子、アクリル酸とスチレンのランダム共重合体が形成する集合体に関して述べた。これらの例を通して、X線小角散乱の長所とその測定上の注意点などを概説した。

 また、「大塚電子の散乱製品紹介」では、本年9月発売の、従来の顕微鏡を超える性能と全く新しい観察法および測定法を搭載した光波動場三次元顕微鏡「MINUK」を紹介。測定する人も場所も選ばずに、瞬時に対象物(フィルムやガラスなどの透明材料)の光の波の情報全て(光波動場)を独自の波面センサで瞬時に取得して、三次元情報として可視化できるという利点をアピールした。

 当日はさらに、MINUKをはじめ実演可能な機器展示を併設した意見交換会が開催された。
 
 

第35回散乱研究会 機器展示の様子 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
機器展示の様子